俺は大学に入学し、解放感からアルバイトをはじめることにした。

中学、高校と男子高に通い、女子とまともに口をきけなくなっている自分

に気付いた俺は、マックでバイトをはじめることにした。

時給は安かったけど、女が沢山いた。ほとんどは学生だったけど、時には

元OLとか、主婦もおり、女に慣れるには適当な環境だった。

進学校を出て、一応名の通った大学に通っていた俺は、バイト先では余り相手にされなかった。

バイト命の香具師が何人もいて、彼らは女に不自由していなかったけど、

一応授業に真面目に出ている俺は、どちらかといえば浮いた存在だった。

それから女への接し方もわからなかった。今から思うと実に下手だった。



女からモーションをそれとなくかけられていたことが何回もあったのだが、

その時はそうと気付かず、なぜ彼女はこんな事を言うのだろうと訝しく思ったものだった。



バイト命は、やがてマックに就職してゆく。俺はそんな道を歩きたくなかった。

授業に出て、剣道部で稽古して、空いた時間にバイトに入る。

そんな毎日だった。



バイトが2年目にもなると、新人の教育を任されたりするし、時間外で

スタッフと打ち合わせをしたりする機会が増える。

俺はトレーナーとして新人の教育に当たりながら、堅物を通していた。



バイト先の数名の主婦は、一応30代前半までだった。

接客もするので、若いほうが良かったし、40代で断られている主婦が

何人もいた。バイト熱心ではなかった俺だが、主婦には比較的受けが良かった。

俺みたいな若者が、女を幸福にするのだと言ってくれたりした。



俺は主婦のうち、3人と仲よくなっていった。

彼女達と、打ち合わせたりする機会が多かったから。



また、俺は若い子達に受けるような会話ができなかった。

仕事に関してじっくり打ち合わせることならできたけど、冗談を

言ったりできなかった。また、若い女性と親しくなれない、バリヤーの

様なものも感じていた。



その点主婦は、俺にとって女というより、姉さんのような感じだった。



話をしているうちに、時にはエロッぽい話になることもあった。

そんな時は、どぎまぎしてしまい、視線をそらせて黙ってしまう俺だった。

そんな俺を主婦達は見て笑った。



その一人は広美さんという主婦で、36歳だった。21歳で結婚し、双子の

お母さんだった。ご主人は大手商社に勤めており、カッコ良くとてももてるらしい。

広美さんは略奪されるように結婚し、あっという間に妊娠、出産。

双子を必死で育てて、ようやく外で仕事ができるようになったのだという。



そんなご主人から略奪されるのだから、彼女も魅力的な女性だった。

小柄で痩せているが、胸は迫力で、柔らかく制服を盛り上げていた。

丸顔で、整った顔つきで、お店にも彼女目当てで来るお客がいた。

お客が来るのは当然と思うかもしれないが、ファストフードのお店で固定客がつくのは

結構珍しい。その人は彼女の列に必ず並び、ある時手紙を彼女に渡したという。

そして、彼女が主婦であるとわかってがっかりしたのだろう、やがてお店に来なくなった。

彼女は独身と思われても不思議のない、生活感がなく若く見える人だった。



彼女とすれ違うとき、彼女は視線を僕から外していたが、身体が僕にぶつかりそうに

なることが度々だった。だが惜しいことに、僕はその都度よけていた。

一度、すれ違う彼女の手の甲が、僕のあそこに当たったことがあった。

僕は慌てて彼女を見たが、黙って彼女は歩いていった。



忙しい時の厨房は、戦争のようなものだから偶然だったかもしれないと思った。

あの時の手の感触は未だに記憶に残っている。



マックでは、時々飲み会が行われた。僕は余り参加しなかった。

しかし、俺が内心好意を持っていた子に誘われたので、参加してみることにした。

試験が近かったのに、よく参加できると思うくらいバイトが参加している。

酒が回ってきて、席を各々変わりはじめる。ここで秘められていたカップルらしきものが

浮き出してくる。



俺を誘ってくれた子は、別の男と話し込んでいた。俺は内心がっかりしながらも

友人と話していた。その時、フと視線を感じ、見ると広美さんが僕を見ていた。

彼女は何となく浮いてしまっている感じだった。仲の良い主婦達が参加していなかった

からだろうと思った。主婦はご主人と子供の世話で、夜は出てこられないことが多い。

俺は、話の区切りを見つけてトイレに立ち、帰りに彼女のそばを通った。

「山田さんはどうしたんでしょうね?」と彼女と仲の良い主婦の名前をあげて話しかけた。

「座って・・・」と言われ、「じゃあ」と俺は隣の空いている席に座った。



座った瞬間、彼女の膝が僕の膝にぶつかってきて、片手が僕の片手の上に

重ねられた。一見柔らかそうな手なのに、実際は水仕事でがさついた手だった。

彼女は酔っているのかな、と思った。

とりとめのない話をして、お開きとなるとき、彼女から「家まで送って・・・」

と甘えたような声で言われた。



今の俺なら、送り狼になるだろうが、その時俺は童貞だった。

チャンスも何も、分からなかった。

女づきあいの勉強などしなかったし、そんな軟派な友人もいなかった。

法学部だったので、試験が近いと気もそぞろだったこともあり、

彼女の近所のバイトに、彼女を送ってあげて欲しいと伝えてしまった。



その当時は成績が就職先にひびく時代だったので、気が気ではなかった。

試験が終わり、久し振りにバイトに入った俺に彼女は笑いかけながら、

「振られちゃった」と言った。目は笑っていなかった。




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