「被害者の住まいは、またコーポフレアだ」
主任のこの一言に、室内は、様々な感情が入り混じったため息で満たされる。
「既にみんな知っての通り、ここは3階建てのアパートだ。アパートと言っても、まだ築2年、鉄筋でセキュリティも厳重、マンションなみの設備を誇っている」
「被害者の部屋はまた2階ですか? それとも1階?」
「まあ、焦るな、高水」
そう声をかけたのは、管内でここ数週間に連続発生する、一連の婦女暴行事件の捜査担当主任、山下であった。
難関である巡査部長試験を1回でクリアした山下は、30代半ば、技量、経験ともに捜査の責任者としては充分な人間である。
室内には山下のほかに、10名程度の刑事課捜査員がいた。
東京都下、といっても都心部から電車で1時間程度かかる街であるが、その一地方警察署2階の小会議室に集合した面々である。高水はその中で最も若い25歳、交番勤務の巡査からこの春、転向したばかりであった。
「これで4人目か・・・」
高水のその独り言に、室内は暗黙のまま同意する。一時の沈黙を破り、山下がまた話し始める。
「そうだ。これで4人目だ。今回の被害者は竹山亜紀子、21歳。明星女子大学3年生。部屋は2階、202号室。被害状況は今までと酷似している。犯行時間は深夜3時すぎ。施錠し忘れたベランダの窓から犯人は侵入、寝入っていた被害者は刃物で脅し、そのまま暴行、金は取らずに立ち去った」
「全く、何で鍵をしないんだか・・・」
「同じアパートで既に3件暴行事件が発生、しかもみんなベランダから侵入されている。我々も充分注意喚起してきたつもりなんだがな・・・」
「最近急に暑くなってきたからねえ。開けたまま寝ちゃうのもわかるわ・・・」
そうつぶやくのは、水元沙紀。28歳の女性刑事だ。
交通課を経て、去年刑事課に異動となったこの女性は、空き巣、痴漢、万引きといった軽犯罪を主に担当していたのだが、今日のミーティングには山下の指示で出席をしていた。
「そりゃ先輩、確かに暑いですけど・・・」
高水は水元の下でいろいろと手ほどきを受けたこともあり、先輩、先輩、となついている。
「アパート2階でしょ、安心しちゃうわよ、そりゃ」
そんな沙紀の発言を受けつつ、山下が批判めいた口調で続けた。
「確かに安心しきった女子大生の巣窟だよ、ここは」
現場となったコーポフレアは3階建て、全15部屋。一人暮らし用、1Kの部屋は、ほとんどが徒歩圏内になる明星女子大学の学生によって占められていた。
「4週間で4件目、犯人はよほど味をしめてるだろうよ」
山下はそう言いながら、ホワイトボードを使っての概要説明を終え、席に着いた。
「主任、犯行は全て日曜深夜、というか月曜早朝ですね。これはどうお考えですか」
沙紀のその指摘に、室内の連中は山下に注目する。
「まあ、真面目な学生なら月曜午前は授業だからな。一番寝入っている可能性が高いってことで、狙いをつけてるんじゃねえのかな」
ペットボトルの水を口にしながら、山下は答えた。
「とすると、また今週日曜日が・・・・。これは張り込みましょうよ、主任」
高水が安易にそう提案する。
「張り込みはまあ当然だがな、こっちとしては現場をしっかりと押さえたい。あそこのベランダは死角が多くて道路からはちょっと見づらいしな」
「現場ってことは、室内に踏み込んだところ、ですか」
「まあ、そうだ。とにかく犯人はまたコーポフレアに舞い戻ってくることは間違いないよ」
「現場、か・・・・」
高水がそうつぶやいたとき、山下は視線を沙紀に向け、そして唐突な内容を口にした。
「おい水元、お前、おとりにならんか」
「えっ!?」
沙紀は牝猫のようなその瞳を一瞬輝かせ、山下を見た。くっきりとしたその瞳は、沙紀の顔立ちのよさを際立たせるものであった。
「そうだ。おとりだ」
軽い調子で言う山下に、沙紀はあっけにとられた。
「この暴行は2階か1階に被害が集中している。で、先週の犯罪の前にだな、ベランダが物色されたような形跡がある部屋が2階にあるんだ。幸い、そこは施錠されていて犯人はあきらめて隣の部屋に行ったらしいが」
沙紀はただ黙って、山下の言葉の続きを待った。
「どうもその部屋は先週だけじゃなく毎週狙われているようなんだ。今度も犯人はそこをチェックする可能性は高い。で、その部屋の住人として水元に一泊してもらうんだよ」
「い、一泊って・・・」
部屋で待ち伏せして犯人を拘束しろ、というの・・・・。できるかしら、わたしに・・・。少しばかり、沙紀は逡巡した。
主任のこの一言に、室内は、様々な感情が入り混じったため息で満たされる。
「既にみんな知っての通り、ここは3階建てのアパートだ。アパートと言っても、まだ築2年、鉄筋でセキュリティも厳重、マンションなみの設備を誇っている」
「被害者の部屋はまた2階ですか? それとも1階?」
「まあ、焦るな、高水」
そう声をかけたのは、管内でここ数週間に連続発生する、一連の婦女暴行事件の捜査担当主任、山下であった。
難関である巡査部長試験を1回でクリアした山下は、30代半ば、技量、経験ともに捜査の責任者としては充分な人間である。
室内には山下のほかに、10名程度の刑事課捜査員がいた。
東京都下、といっても都心部から電車で1時間程度かかる街であるが、その一地方警察署2階の小会議室に集合した面々である。高水はその中で最も若い25歳、交番勤務の巡査からこの春、転向したばかりであった。
「これで4人目か・・・」
高水のその独り言に、室内は暗黙のまま同意する。一時の沈黙を破り、山下がまた話し始める。
「そうだ。これで4人目だ。今回の被害者は竹山亜紀子、21歳。明星女子大学3年生。部屋は2階、202号室。被害状況は今までと酷似している。犯行時間は深夜3時すぎ。施錠し忘れたベランダの窓から犯人は侵入、寝入っていた被害者は刃物で脅し、そのまま暴行、金は取らずに立ち去った」
「全く、何で鍵をしないんだか・・・」
「同じアパートで既に3件暴行事件が発生、しかもみんなベランダから侵入されている。我々も充分注意喚起してきたつもりなんだがな・・・」
「最近急に暑くなってきたからねえ。開けたまま寝ちゃうのもわかるわ・・・」
そうつぶやくのは、水元沙紀。28歳の女性刑事だ。
交通課を経て、去年刑事課に異動となったこの女性は、空き巣、痴漢、万引きといった軽犯罪を主に担当していたのだが、今日のミーティングには山下の指示で出席をしていた。
「そりゃ先輩、確かに暑いですけど・・・」
高水は水元の下でいろいろと手ほどきを受けたこともあり、先輩、先輩、となついている。
「アパート2階でしょ、安心しちゃうわよ、そりゃ」
そんな沙紀の発言を受けつつ、山下が批判めいた口調で続けた。
「確かに安心しきった女子大生の巣窟だよ、ここは」
現場となったコーポフレアは3階建て、全15部屋。一人暮らし用、1Kの部屋は、ほとんどが徒歩圏内になる明星女子大学の学生によって占められていた。
「4週間で4件目、犯人はよほど味をしめてるだろうよ」
山下はそう言いながら、ホワイトボードを使っての概要説明を終え、席に着いた。
「主任、犯行は全て日曜深夜、というか月曜早朝ですね。これはどうお考えですか」
沙紀のその指摘に、室内の連中は山下に注目する。
「まあ、真面目な学生なら月曜午前は授業だからな。一番寝入っている可能性が高いってことで、狙いをつけてるんじゃねえのかな」
ペットボトルの水を口にしながら、山下は答えた。
「とすると、また今週日曜日が・・・・。これは張り込みましょうよ、主任」
高水が安易にそう提案する。
「張り込みはまあ当然だがな、こっちとしては現場をしっかりと押さえたい。あそこのベランダは死角が多くて道路からはちょっと見づらいしな」
「現場ってことは、室内に踏み込んだところ、ですか」
「まあ、そうだ。とにかく犯人はまたコーポフレアに舞い戻ってくることは間違いないよ」
「現場、か・・・・」
高水がそうつぶやいたとき、山下は視線を沙紀に向け、そして唐突な内容を口にした。
「おい水元、お前、おとりにならんか」
「えっ!?」
沙紀は牝猫のようなその瞳を一瞬輝かせ、山下を見た。くっきりとしたその瞳は、沙紀の顔立ちのよさを際立たせるものであった。
「そうだ。おとりだ」
軽い調子で言う山下に、沙紀はあっけにとられた。
「この暴行は2階か1階に被害が集中している。で、先週の犯罪の前にだな、ベランダが物色されたような形跡がある部屋が2階にあるんだ。幸い、そこは施錠されていて犯人はあきらめて隣の部屋に行ったらしいが」
沙紀はただ黙って、山下の言葉の続きを待った。
「どうもその部屋は先週だけじゃなく毎週狙われているようなんだ。今度も犯人はそこをチェックする可能性は高い。で、その部屋の住人として水元に一泊してもらうんだよ」
「い、一泊って・・・」
部屋で待ち伏せして犯人を拘束しろ、というの・・・・。できるかしら、わたしに・・・。少しばかり、沙紀は逡巡した。
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「続きを読む」のクソ仕様な時点でゴミサイトですけどね