緊張感の途切れる昼下がり。

とある宙学校の一年の古文の授業中に、辻原文太(つじはらぶんた)は小さなため息をついた。 昼食後のこの時間帯はいつもやる気が出ない。まあ、彼の場合、全ての授業において熱意を抱くことが無いのだが。文太の席は、黒板から最も遠い後ろに位置しており、なおかつ窓際である。 彼は視線を左に向けて外の風景をぼんやりと眺めることにした。



代わり映えの無い景色。

少しずつ気温が上がってきた六月の中旬の空は、やや曇っていた。

……傘を持ってきていないことを思い出し、余計に憂鬱な気分になってくる。



「こら、辻原! 授業に集中しろ!」



古文担当の教師が教壇の上から一喝する。



「あ、は、はい、すみません……」



クラスメイト達の口からクスクスという笑い声が聞こえてくる。

それはあまり温かい意味を持ってはいなかった。

文太にとって、それは"嘲笑"だった。

この教室内に、文太の友達はいない。

では、他のクラスにはいるのかというと、そうでもなかった。



彼は孤独だった。

顔立ちがあまり良くなく、勉強にも運動にも秀でていない。

彼には何一つ誇れるものが無かった。

加えて、人付き合いが苦手なので、自然と彼の周りには人が集まらないのだった。



苦痛でしかない授業が終わると、荷物をまとめてさっさと教室を後にする。

部活に所属しているわけではないので、放課後になれば学校にいる必要が無くなる。

彼にとってここは居心地の良い場所とは言えない。

一秒でも早く立ち去りたいというのが本音だった。



(ああ、やっと終わった……)

一日の疲れを感じながら、とぼとぼと通学路を歩く。

代わり映えしない風景を眺めていると、下校する時はいつもそうなのだが、

彼の頭が――――彼自身はそれを望んでいないにもかかわらず――――さっそく今日の出来事を反芻し始めた。





「ねえねえ、昨日のドラマ観た!? 主演の松原クンが超カッコ良かったよね~!」



「オレ、B組の新崎さんにコクっちゃおっかなー!」



「サッカー部の伊沢先輩って、彼女さんいるんだってぇ。マジショックぅ~」



過去の時間から聞こえてくるのは、クラスメイトの話し声だった。

誰も彼も、男女関係のことで熱心になっている。

身体が急激に成長を始める宙学生一年生の少年少女達は、そういったことに興味津々なのだ。

文太は彼らの会話を聞くのが嫌いだった。

なぜかと訊かれても、上手く答えられない。

強いて言うならば、"自分が関与できないから"かもしれないと彼は思った。


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